今回は、「副甲状腺ホルモンとカルシトニン」についてお話しします。
副甲状腺ホルモンとカルシトニンは、どちらも血中カルシウム濃度の調節に関わるホルモンです。
この2つのホルモンは、骨吸収と骨形成のイメージが強すぎて、
- 副甲状腺ホルモン=骨吸収
- カルシトニン=骨形成
という理解で終わってしまっている受験生が多いです。
残念ながらこの知識だけだと、すべての問題に対応することができません。
ということで、副甲状腺ホルモンとカルシトニンが、どのような方法で血中カルシウム濃度を調節しているのかを、確認していきます。
副甲状腺ホルモン:血中カルシウム濃度を上昇させる方法
- 骨吸収(骨から血液中にカルシウムを移動させる)
- 腸管からのカルシウム吸収率を増やす
- 尿中に排泄されるカルシウムの量を減らす(排泄抑制、再吸収促進)
カルシトニン:血中カルシウム濃度を低下させる方法
- 骨形成(血液中から骨にカルシウムを移動させる)
- 腸管からのカルシウム吸収率を減らす
- 尿中に排泄されるカルシウムの量を増やす(排泄促進、再吸収抑制)
これらの知識が頭の中に入っていれば、どんな問題が出題されても、必ず解くことができるようになりますよ!
副甲状腺の役割と病気
- 副甲状腺の役割
- 原発性副甲状腺機能亢進症
- 二次性副甲状腺機能亢進症
- 副甲状腺のう胞
副甲状腺の役割
副甲状腺とは
副甲状腺は、甲状腺の裏側にある米粒くらいの大きさの臓器です。
「副」甲状腺といいますが、甲状腺とは別の臓器であり、「上皮小体」とも呼ばれています。通常、甲状腺の裏に左右上下一つずつ、合計4個あります。副甲状腺の数や位置は個人差があり、副甲状腺が5つ以上の場合、または3つしかないこともあります。通常の副甲状腺は小さいため頸部の超音波検査で確認することは困難です。
■背中側から見た副甲状腺
副甲状腺の働き
副甲状腺は、副甲状腺ホルモンを分泌しています。副甲状腺ホルモンの主な働きは、血液中のカルシウム濃度の調整です。カルシウムは骨の材料であるだけでなく、心臓も含め全身の筋肉を収縮させたり、血液を固まらせたりするのにも欠かせません。さらに、脳細胞が働く上でもなくてはならないミネラルです。
カルシウムの貯蔵場所は骨ですが、副甲状腺ホルモンはビタミンDとともに、カルシウムを骨から血液中に送り出したり、腎臓や腸から吸収したりして、血液中のカルシウム濃度を上昇させる働きをします。
一般的に血液中のカルシウムの濃度は、8.8~10.1mg/dlの間に調節されています(検査施設によって数値は若干の違いがあります)。
また、カルシウムの方にも副甲状腺ホルモンの分泌を調節する働きがあり、血液中のカルシウム濃度が下がると副甲状腺ホルモンの分泌が高まって濃度を上げようとします。逆に血液中のカルシウム濃度が高すぎると、副甲状腺ホルモンの分泌が減り、濃度を下げようとします。このようにして、血液中のカルシウム濃度は一定に保たれます。
原発性副甲状腺機能亢進症
原発性副甲状腺機能亢進症とは
副甲状腺ホルモンの病的な過剰分泌によって、血液中のカルシウム濃度が上昇し、尿路結石、骨粗しょう症や高カルシウム血症によるさまざまな症状を引き起こします。
約4,000~5,000人に1人の割合で発見される病気ですが、多くは良性で、がんの割合は約1~5%であり、がんと遭遇することはごくまれといえます。
副甲状腺機能亢進症は、腎不全など副甲状腺以外の原因で起こることがありますが、副甲状腺そのものに原因がある場合を「原発性」副甲状腺機能亢進症、その他を「二次性(続発性)」副甲状腺機能亢進症と呼び、区別しています。
症状
典型的な症状は、以下の3つです。
(1)骨病変(骨がもろくなって骨折しやすくなり、ひどいときは身長が縮んだりする)
(2)尿路結石(腎結石)
(3)高カルシウム血症(頭痛、のどが乾く、胸焼け、吐き気、食欲低下、便秘などの消化器症状、精神的にイライラする、疲れやすい、筋力低下など)
最近では、典型的な症状はなく、検診などで高カルシウム血症が偶然発見される機会も多くなりました。
この病気では、血液中のカルシウム濃度がわずかに高いだけで、しかもその期間が短い時はほとんどの場合で何も症状がないことが多いのですが、カルシウム濃度が高い場合は、上記の症状が強くなります。
副甲状腺がんの場合は、非常に高いカルシウム濃度になることが多く、特に上記の3つの症状を起こしやすくなっています。
検査
(1) 病気を診断するための検査:血液検査/尿検査
血清カルシウム濃度、副甲状腺ホルモン値、尿中カルシウム濃度など
(2) 副甲状腺の腫瘍がどこにあるか探す検査
超音波検査(エコー)、アイソトープ検査(副甲状腺シンチグラフィ:MIBIシンチグラフィ)、頚部CT検査など
副甲状腺がんについては、治療前に診断をつけることが難しい病気です。そのため、症状や上記の検査、手術後の病理組織検査により総合的に判断をして診断しなければなりません。
治療
血中カルシウムの値が11㎎/dl以上であれば、基本的には手術療法をおすすめします。根本的な治療法は、手術により腫大した副甲状腺病変の摘出です。入院して全身麻酔下で手術を行います。
症状がない血中カルシウム値上昇が軽度の症例では、経過観察する場合もあります。
手術方法 (術式) |
腫大した副甲状腺を摘出 |
副甲状腺を全摘後、一部を自家移植(前腕などへ) |
甲状腺の一部、リンパ節も含めて切除 |
日常生活
高カルシウム血症になると脱水になりやすいので注意が必要です。血液中のカルシウムを上昇させないためにも、こまめに水分をとるようにして、カルシウムを多くとりすぎないようにしてください。
血液中のカルシウム濃度が極端に高く、症状が強い人は早急な入院が必要です。血液中のカルシウム濃度がわずかに高いだけで、はっきりした症状がない人は、それほど治療を急ぐ必要はありません。入院日が決まるまで普通の生活をしていただいて結構です。
二次性副甲状腺機能亢進症
二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症とは
副甲状腺そのものではなく、くる病やビタミンD欠乏症、慢性腎不全などの副甲状腺以外の病気が原因で副甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、その結果、骨からカルシウムが失われる病気を、二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症といいます。
代表的な原因:腎性副甲状腺機能亢進症について
二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症の代表的な原因に、腎性副甲状腺機能亢進症があります。
慢性腎不全になると、腎臓でのリンの排泄およびビタミンD3の活性化ができなくなります。また活性化ビタミンD3が低下すると、腸管からのカルシウムの吸収が低下します。つまり、慢性腎不全の人は血液中のカルシウムが低下し、リンが上昇するわけですが、これらの状態は副甲状腺を刺激し、副甲状腺ホルモンの分泌を促します。そして長期間刺激され続けた副甲状腺は腫大し、やがて血液中のカルシウムの値に関係なく副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されます。
症状
副甲状腺ホルモンの過剰な分泌は、骨のカルシウムを血液中にどんどん溶出してしまうため、骨がもろくなる「線維性骨炎」となり、骨痛や骨変形・病的骨折などの原因となります。
また、過剰な副甲状腺ホルモンは、さまざまな場所へカルシウムを沈着(異所性石灰化)させ、動脈硬化や心臓弁膜症・関節炎などを引き起こします。
検査と治療法
検査では、定期的に血液中のカルシウムやリン・副甲状腺ホルモン濃度を測定します。腎性副甲状腺機能亢進症にならないようにするためには、食事療法やリン吸着剤の内服、血液中のカルシウム(Ca)が低下している場合はカルシウム製剤の内服、活性型ビタミンD3の内服または静脈内投与などで予防することが大切です。ある程度病気が進行してしまったら、まずは内科的治療として、シナカルセト(レグパラ®)、エテルカルセチド(パーサビブ®)、エボカルセト(オルケディア®)を投与します。内科的治療にもかかわらず病状が進行してしまう場合や、副作用などで継続が困難な場合は、手術療法が考慮されます。
手術療法では、副甲状腺を全て摘出し、摘出した副甲状腺の一部を前腕などに移植する方法が一般的です
※ 透析患者様の手術療法については、透析設備を持った他施設へのご紹介をさせていただいています。医療相談室までご相談ください。
副甲状腺のう胞
副甲状腺のう胞とは
副甲状腺に水の溜まりができたものを、副甲状腺のう胞と呼びます。この病気には、副甲状腺ホルモン値が上昇しない「非機能性副甲状腺のう胞」と、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「機能性副甲状腺のう胞」があります。
非機能性副甲状腺のう胞 副甲状腺は、胎生期に魚類のえらに相当する鰓嚢(さいのう)というものが下垂して、甲状腺の背面に位置します。その下垂する過程で管が残って発生するものが非機能性副甲状腺のう胞といわれています。 機能性副甲状腺のう胞 機能性副甲状腺のう胞の原因としては、副甲状腺腺腫ののう胞変性などが考えられています。
症状
非機能性副甲状腺のう胞症状はほとんど認めません。機能性副甲状腺のう胞原発性副甲状腺機能亢進症に準じた症状を呈します。原発性副甲状腺機能亢進症についてはこちら
検査と治療法
検査では、血液中のカルシウム濃度・副甲状腺ホルモン濃度の測定によって非機能性か機能性かの判断を行い、超音波検査(エコー)やCT・アイソトープ検査(MIBIシンチグラフィ)などでのう胞の場所を確認します。
非機能性副甲状腺のう胞 内容液の穿刺・吸引治療を行うことがあります。 機能性副甲状腺のう胞 血液中のカルシウム濃度や骨の状態、結石の既往症などを考慮して、経過観察や手術の選択となります。機能性甲状腺のう胞は一度よくなっても再発する可能性があるため、手術を行う方が一般的です。
日常生活
特に気をつけることはありませんが、定期的に検査しましょう。