緊急事態が発生!こんな時どうすれば…?一般的には施設の責任者から指導を受けたり、アドバイスをもらったりして課題を解決していきますよね。このアドバイスをくれる人(スーパーバイザー)が、アドバイスを受ける人(スーパーバイジー)に対して定期的に適切な指導をしていくことを「スーパービジョン」といいます。今回はこのスーパービジョンについて考えていきたいと思います。
スーパービジョンとは
スーパービジョン(supervision)とは、介護業界において新人職員(スーパーバイジー)が施設長・管理者等の指導者(スーパーバイザー)から教育・指導を受ける過程を指します。
文字で見ると少しわかりづらいので、新しく施設に就職した時のことを少し思い出してください。
緊張しながら朝礼であいさつをすると、施設長の方から「あなたの教育担当者は〇〇さんです」と言われ、「よろしくお願いします」とお声がけします。そこからいろいろな仕事をしていきますが、わからないことや困ったことなどありますよね。
その時に教育担当の〇〇さんに相談すると思います。また、〇〇さんも事あるごとに「大丈夫?」なんて声をかけてくれて……この流れがスーパービジョンです。
スーパーバイザーって何?
介護におけるスーパーバイザーは、以下のような人が担います。
・施設長
・管理者
・リーダー
・教育担当者
・外部研修講師(コンサルタント)
課題に対してアドバイスしたり、定期的に面談してメンタル面をフォローしたりすることが役割です。施設全体の経営に関わることから職員の育成に関することなど、介護においては幅広いスーパーバイザーが存在します。現場でがんばって仕事をした方が、その専門知識を活かしてスーパーバイザーとして、独立起業する方もいます。
スーパーバイジーって何?
一方、介護におけるスーパーバイジーは、以下のような人が担います。
・新人職員
・異動等で新しいサービスに従事する方(施設介護から通所介護などに異動)
・フォローが必要な職員
新しく介護の仕事を始めたり、人事異動等で新しいサービスで仕事をしたり、そんな時に先輩からいろいろと教えてもらうことがあると思います。この教えてもらう人のことをスーパーバイジーと呼びます。
最初はスーパーバイジーでも、年数や経験を重ねてスーパーバイザーとして活躍される人も多いです。指導される側から指導する側に変わることで、できることが増えるため、介護職として大きく成長することができます。
スーパービジョンの目的とは
仕事をしていながら、スーパーバイザーから仕事の指導やアドバイスをしてもらい、介護サービスの質の向上や、トラブルへの対処能力を底上げする目的があります。
介護という仕事は、状況対応をするために豊富な経験が必要となります。施設によっても利用者様によっても対応を変えていかないといけないのが介護の楽しさでもあり、大変さでもあります。この豊富な経験はすぐに身につけられるわけではありません。だからこそ、スーパーバイザーからいろいろなアドバイスを受けることが大切です。
スーパービジョンの種類とは
スーパービジョンには主に4つの種類があります。
1 個人スーパービジョン
2 集団スーパービジョン
3 ピアスーパービジョン
4 ライブスーパービジョン
個人スーパービジョンとは
個人的に施設長や管理者等(スーパーバイザー)と、新人職員等(スーパーバイジー)が1対1で行うスーパービジョンのことです。簡単に言うと面談です。今困っていることや悩んでいることをスーパーバイザーに相談して具体的なアドバイスをもらいます。
個人スーパービジョンのメリット
・個別性が高い
・具体的な相談をすることができる
・スーパーバイザーとの関係を深めることができる
個人スーパービジョンのデメリット
・スーパーバイザーの技量が重要
・スーパーバイザーとスーパーバイジーとの信頼関係が重要
集団スーパービジョンとは
研修や会議等のグループで指導・助言を行うスーパービジョンのことです。他の人の意見を聞くことで、さまざまな角度からの相談・助言が得られ、スーパーバイジーの視野を拡げることにもつなげることができます。
集団スーパービジョンのメリット
・多様な価値観で意見交換ができる
・客観的に考えることができる
集団スーパービジョンのデメリット
・参加者に利害が発生する場合、発言しづらい
・個別性が低いため真の相談をしづらい
ピアスーパービジョンとは
同じ立場同士でスーパーバイザー、スーパーバイジーに役割をわけて行うスーパービジョンのことです。同期の中で「相談する人」「アドバイスする人」に分かれて行います。
ピアスーパービジョンのメリット
・立場が同じため意見しやすい
・リラックスして実施可能
ピアスーパービジョンのデメリット
・他視点からのアドバイスが少ない
・経験に基づくアドバイスが少ない
ライブスーパービジョンとは
スーパーバイジーが仕事を行っている場面において、その場で助言・指導を行うスーパービジョンのことです。
ライブスーパービジョンのメリット
・適切なアドバイスをもらえる
・質問や困ったことにリアルタイムで答えてもらえる
ライブスーパービジョンのデメリット
・緊張して普段の力が発揮できない
・粗さがしをされそうでこわい
スーパービジョンの実施例
ここで参考までに、介護施設における上司と部下(リーダー候補)とのスーパービジョンの実施例をご紹介します。
部下「私、辞令でリーダー(管理職)を依頼されたのですが、どのように依頼を受け取ればいいかわからなくて悩んでいます」
上司「リーダーの辞令なんてすごいと思うよ。何が不安なの?」
部下「とにかく現場が好きなので現場を中心にやりたいんです。管理職になると 現場の仕事から離れることになるような気がしてやる気がおきません」
上司「現場の仕事の何がしたいの?」
部下「利用者様と接していくことが大好きなので今後も利用者様と接していきたいです」
上司「管理職になったら接することがなくなると思う?」
部下「はい、接する時間が少なくなると思います」
上司「そうだね。多少の時間は少なくなるかもしれないね。管理職になると自分で決めることができる権限が大きくなっていく。だから現場で気づいた『もっとこうしたらいいのに』を実現できる立場になるんだ。そうなると大好きな利用者様がより良い環境で生活できる場を創ることができる。施設としてそれがあなたにできると思ったからリーダーをお願いしたいんだ」
部下「そうですね。確かに『あれをもっとこうしたら…』ということは日々考えていました。それを実現できる立場になるということなんですね」
上司「そうだよ。やりがいあると思わない?」
部下「はい、思います。私がんばります」
上司「期待しているよ。いつもありがとね」
部下「こちらこそいつもアドバイスありがとうございます」
部下が何に悩んでいるのか、何に困っているのかのポイントを見つけ出すために的確な質問を投げかけることが大切です。今回のケースは、「管理職になったら利用者様と接する時間がなくなる=やりたいことができなくなる」ことに悩んでいました。
上司は「そんなことない。逆にやりたいことを実現できる立場になるんだ」とアドバイスして部下は納得しました。言葉の裏側に感情が隠れている場合もあります。
スーパービジョンを円滑にするポイント
最後にそれぞれの立場でスーパービジョンを円滑にするポイントをご紹介します。
スーパーバイザー
・スーパーバイジーの課題を聞き出す
・相づちなどを活用してスーパーバイジーが話しやすい雰囲気をつくる
・説得ではなく納得を意識する
・スーパーバイジーへの感謝を伝える
スーパーバイジー
・本当に悩んでいる課題を素直に相談する
・納得できない場合は、納得できるまで質問する
・スーパーバイザーへの感謝を伝える
介護におけるスーパービジョンを適切に活用すると、人材育成はもちろん、離職防止にもつながると思います。まずはスーパーバイザーとスーパーバイジーとの関係を良好にすることが大切です。介護の現場では人材不足と言われています。新規採用を強化するのはもちろんですが、今現場で働いている職員の皆さんがより良い環境で仕事をして離職しない環境をつくることも大切なのではないでしょうか。
スーパービジョンを活用し、「介護の仕事をしてよかった」と誰もが思えるよりよい介護現場をつくりましょう。
悩める人
スーパービジョンを受けたいと思うのだけど、どうしたら良いでしょうか?
自分を成長させるためにスーパービジョンを受けたいと考える方は多いと思います。
ですが、なかなかスーパービジョンといわれると仕切りが高いですよね💦。
ですので、ここでは、先輩ワーカーがいない職場でも、業務時間内にしっかりとスーパービジョンが展開できるようなノウハウを紹介したいと思います。
ぜひ、現場で活かしていきましょう。
記事の内容
- バーンアウトしやすい職種はどの職種でしょうか?
- スーパービジョンの必要性を歴史から少し
- ピアスーパービジョンのおすすめ
- ピアスーパービジョンの具体的な方法について
記事の信頼性
医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年になります。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって8年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。
本文は、以下のテキストを題材にして筆者が作成しております。非常にわかりやすいテキストになっていますので、必読をお勧めいたします。
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スーパービジョンの必要性を話す前に
バーンアウトしやすい職種はどの職種でしょうか?
さて突然ですが、問題です。
燃え尽き症候群になりやすい職種は何でしょう?
それは・・・、対人援助職になります。福祉職のみなさんが該当しますね。
それは、対人援助職に多く認められる情緒的枯渇によって、起こされる精神疲労状態。
Freudenberger
疲れ果てた感情や、もう何もできない気分。
支援対象者や他者に対して無関心になり、非情にみえる感情や行動をとることが増す。
充実感や自己効力感を得ることができなくなる。
対人援助職は心的エネルギーが過度に要求されるにもかかわらず、人間が相手であるために努力しただけの結果が出るとは限らず、「目に見える成果」が得にくいものです。
たとえば、計画の目標を立案するうえで、「本人の意向を尊重する」とあります。
言葉にすると「そりゃそうか」と至極当然なことなのかもしれませんが、本人の意向を尊重するためには、本人の価値観等から理解することが必要ですから、本来十分に話し合わないと当事者の価値観はわからないものです。
ですので、簡単なことではないのです。
援助の目標を立案しても、このゴールがあいまいなものです。
例えば、骨折を治すなど医療のような明確なゴールがありません。このあいまいさがむずかしさの一面でもあります。
だからこそ、燃え尽きを予防していくためには、スーパービジョンが大切なのですが、現場の意見としてはどうでしょうか?
福祉職についてのスーパービジョンを少しコラムにしていますので、こちらも参考にしてくださいね。
現場の意見としては
事務処理も多いけど、訪問もあるので、まず全員そろっている時間がない。
上司がいないことが多い。
こまっているとはなかなか言えない。
時間もないし、きりがない。
私の職場では、こういった意見がでました💦。
上司というのは私になるわけですし・・・、大変心苦しい点ですね。
「現場は忙しいんだ。」といった感覚だと思います。
時間もないのに、スーパービジョンを行うなんて無理な話・・・。と思われるかと思いますが、是非お勧めしたいのが、ルーティンワークにスーパービジョンを入れるということになります。
現場でのスーパービジョンの展開する方法
スーパービジョンの必要性について
スーパービジョンの必要性を歴史から少し紐解きましょう。
ケースワークの源流は、1880~90年代にかけての慈善組織協会(COS)の活動にさかのぼります。
友愛訪問員と呼ばれるボランティアが活動していました。
アメリカのCOSでは、有給職員がその教育にあたったが、それがスーパービジョンの始まりと言われています。
利用者への直接的な援助を実践するソーシャルワーカーやケアマネジャーには、古くからスーパービジョンが不可欠なものだったことを私たちは知らなくてはいけません。
スーパービジョンの基礎的な説明は以下を参考にしてくださいね。
ルーティンワークに(時間内に)、課題解決の方法を取り込んでいく方法
ケースワークやケアワーク、ケアマネジメントにせよルーティン業務が必ずあります。
記録はどうでしょうか。それもやらなければならない業務になります。
スーパービジョンはどうでしょうか?これはやらなければならない業務では・・・ありません。
しかし、スーパービジョンは古くから不可欠なものですから、ルーティン業務に含んでしまう必要があります。
忙しいからできないのではなく、「ケースワークをするならスーパービジョンをセットで行う」のです。
こういった考え方へ切り替えていくことを是非お勧めします。
ピアスーパービジョンとは
ピアスーパービジョンについて、簡単に説明しておきたいと思います。
仲間同士が行うスーパービジョン。気心の知れた同僚同士が行うものなので、他のスーパービジョンに比べ話がしやすい環境を作ることが出来る。
それぞれが熟練ワーカー(スーパーバイザー)、新人ワーカー(スーパーバイジー)の役割を担う必要がありますが、これこそ、私が同僚間などでピアをおすすめする大きい理由がこの点です。
職場内で「私がスーパーバイザーです。」と言ってくれれば良いですが、そいった職場でないかもしれません。
ピアスーパービジョンの流れ
では、私が取り組んでいるスーパービジョンを紹介しますね。
簡易版ピアスーパービジョンを活用して事例について話し合います。大きな流れを以下に提示します。
- 今日のファシリテーターとサブリーダーを決めましょう。(導入)
- みんなで共有したい事例概要を事例紹介しましょう(1人1分)
- その中で、事例提供者を決めてください。
- ワークの進め方(明確化)以下の手順で事例を明確にしましょう
- 事例概要や経緯について事例提供者が説明し、手元のメモでも良いのでそれぞれが記入。
- 他のメンバーが事例の内容について事例提供者に質問する。
- 事例の問題点を整理し、事例提供者が問題と思う点を列挙する。
- 他のメンバーが問題と思うところを話し合い、事例提供者が問題と思えば列挙する。
- ワークの進め方(まとめ)以下を参考にしてまとめていきましょう。
- 事例の良いところを整理する。
- メンバー全員で事例の良い点(ストレングス)を整理する。
- 今後の方向性について検討する。
- メンバー全員で具体的に検討する。事例提供者が見通しをつかめるように助言する。過去の経験からのアドバイスなど
- (ふりかえり)ピアスーパービジョンを通して、必要性、気づいたこと、感じたことについて自由に話し合う。
ピアスーパービジョンの留意点
ピアスーパービジョンを行う上で、とても大切になる留意点を挙げておきたいと思います。
テキストにおいてはグループのリーダーへの留意点としていますが、この3点がスーパービジョンを実施していく上での肝と思っています。
なので、グループのみなさんが留意する点として挙げさせていただきたいと思います。
1 あくまでも主人公は事例提供者である。事例提供者が抱えている問題点に沿って進行し、孤立しないように最大限の配慮をする。
2 特定のメンバーばかりが話すと他のメンバーは委縮して話すことができなくなる。メンバー全員が話すことができるように皆で配慮し、常に受容的な雰囲気づくりに努める。
3 メンバー間の相互作用がどのように展開し、話し合いの焦点がどこにあるのかを常に意識し、焦点の移り変わりは全体で確認する。
具体的な運用について
ルーティン業務として、時間内のどこに入れ込んでいくのかはみなさん次第と思います。
私は、朝のミーティング内で実施しています。たとえ、15分でも事例共有を行うことができるので、格式張らずに「いつもの」感じで行っています。
より良いケースワーク・ケアマネジメントを目指して、スーパービジョンをどんどん活用していきましょう。
本文は、以下のテキストを題材にして筆者が作成しております。非常にわかりやすいテキストになっていますので、必読されることをお勧めいたします。
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