情報処理安全確保支援士の将来性は?

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先日ある技術者コミュニティーで、国家資格「情報処理安全確保支援士(支援士)」の現状について案じるやり取りを目にした。2021年4月から10月にかけて登録者が減っているのだという。

支援士は、サイバーセキュリティーに関する実践的な知識や技能を有する人材の育成と確保を目的とした制度だ。経済産業省が主管となり、情報処理推進機構(IPA)が試験を運営している。受験者は試験に合格後、IPAに登録することで支援士を名乗れるようになる。

筆者自身、記者になる前は他業界の情報システム担当だったこともあり、IPAが運営する情報処理技術者試験をいくつか受験してきた。中には苦労した末に合格したものもあるので同試験には思い入れがある。支援士が登録者数を増やして「人気資格」になるためには何が必要か、考えてみたい。

目標の登録者数に1万人不足

IPAが発表している数値を確認すると、2020年10月に1万9752人だった登録者が、2021年10月には1万9450人に減少していた。2017年に登録受け付けを開始して以来、初の前年割れとなる。首相官邸は2020年7月に公表した「令和2年度革新的事業活動に関する実行計画案」で、サイバーセキュリティー確保のためのKPI(重要業績評価指標)を「2025年までに、情報処理安全確保支援士登録数3万人超」としている。2022年以降、年間2500人以上増えなければ達成できない数字だ。

情報処理安全確保支援士の将来性は?

情報処理安全確保支援士の登録者数。2020年から2021年にかけ減少している

(出所:IPAの資料を基に日経クロステック作成)

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さらに注意深く見る必要があるのは、2018年までの新規登録者は大多数が旧試験からの移行組だということだ。旧試験とは2008年まで実施されていた「テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験」と2016年まで実施されていた「情報セキュリティスペシャリスト試験」を指す。支援士試験の前身となる試験だ。支援士として登録するためには原則支援士試験に合格する必要があるが、旧試験の合格者は経過措置として2018年8月まで、支援士試験を受けず支援士として登録できた。グラフにすると、支援士制度が始まって以降、支援士試験に合格した新規登録者数は一度も年間2500人を超えていないのが分かる。

情報処理安全確保支援士の将来性は?

支援士新規登録者の内訳。2018年以前は大半が旧試験合格者の移行措置による登録だった。支援士試験合格者の新規登録は、2252人だった2019年を除き年間2000人を下回る

(出所:IPAの資料を基に日経クロステック作成)

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そもそも支援士制度が始まった2017年当初、経産省は3万人登録を2020年までに達成する目標として掲げていた。それを5年も延ばさざるを得なかった背景には、制度の大幅な変更がある。2020年5月に「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」が施行され、支援士に3年ごとの更新義務が課されたのだ。右肩上がりで増える前提だった支援士が未更新により減るというケースは、当初の想定に無かったのだろう。

10万円以上の講習費用が負担に

更新制を導入した目的は、支援士の信頼性向上だ。IPAは自身のWebサイトで「サイバーセキュリティに関する最新の知識・技能の維持のみならず、欠格事由に該当していないかなど、情報処理安全確保支援士としての資格を有しているかを改めて確認する」としている。日々新たな攻撃手法や脆弱性が発見されるサイバーセキュリティーの世界において、知識のアップデートは必須となる。更新制を導入することで支援士の知識レベルを担保し、「支援士ならば最新のセキュリティー情報を押さえている」という認識を広げたいわけだ。

だが更新制による登録者への負荷が導入当初から指摘されてきた。具体的に負荷となるのは、更新にあたり必須となる講習だ。共通講習、実践講習の2種類を受講しなければならない。共通講習は情報セキュリティー実践のために必要な知識や技能、倫理について学ぶ講習でIPAがオンラインで開催、年に1度受講する必要がある。実践講習は実習や実技、演習などを伴うオンラインまたは実地での研修だ。こちらもIPAが主催するが、経産省が認めるものであれば民間事業者主催の特定講習で代替できる。3年間のうち1回、受講する必要がある。

情報処理安全確保支援士の将来性は?

支援士資格の更新サイクル。資格の維持には年1回の共通講習と、3年に1回の実践講習もしくは特定講習を受講し続ける必要がある

(出所:IPAのWebサイト)

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注目すべきは受講者が負担する費用だ。最初の3年間で最低でも13万4700円がかかる(住民票の写しなどの事務手続き費用を除く)。内訳はこうだ。まず初回登録時に登録免許税として9000円、登録手数料として1万700円がかかる。次に年次の共通演習1回当たり2万円、3年で6万円を支払う必要がある。最後に実践・特定演習だ。内容や主催する業者により開きがあるが、2021年4月時点で最も安かったアイ・ラーニング社の「情報セキュリティマネジメント構築」研修が5万5000円となる。

登録免許税と手数料がかかるのは初回登録時だけだが、それでも3年間で10万円以上と個人で負担するには決して小さくない金額だ。

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専門性が高く、転職に有利なベンダー系資格

以下に挙げた2つの資格は、非常に専門性が高く、それ故に就職や転職にも有利だといわれている。

「AWS認定試験」は、「アマゾンウェブサービス(AWS)」に関する専門知識を問う資格試験。今やAWSは、欠かせないインフラとなっている。しかし現状、インフラエンジニアは人材不足のため、クラウドサービスを運用できる資格を持っていれば転職に有利だ。

「ORACLE MASTER」はオラクルデータベースの管理スキルを証明する資格で、データベースの世界では最も有名な資格だ。

【ベンダー資格】AWS認定試験

アマゾンウェブサービス(AWS)は、世界で最も広く採用されているクラウドプラットフォームで、AWS認定試験は、その知識やスキルを問う試験。インフラエンジニアを目指す人にとっては、就職や転職に有利だ

サイト:https://aws.amazon.com/jp/certification/ 試験内容:AWS(Amazon Web Services)に関する専門知識やスキルを有していること認定する資格 主催・運営元:アマゾンウェブサービス(ピアソンVUE/PSI) 試験科目:「ベーシック(基礎レベル)」「アソシエイトレベル」「プロフェッショナルレベル」の3レベルに分けられた6つの認定資格と、専門知識の認定資格5種類の合計11種類 対象者:インフラエンジニアを目指したい人向け 試験会場および実施日:オンラインまたはテストセンターにて随時 受験料:1万1000~3万3000円(税別、試験科目により異なる) 合格点:1000点満点中700点以上~750点以上(試験科目により異なる) 時間/試験方法:90~180分(試験科目により異なる)/パソコンを使用して操作するCBT方式 合格率:非公開

【ベンダー資格】ORACLE MASTER 2019

難易度に応じてBronze、Silver、Goldがあり、Gold取得にはSilverの取得が条件となる。Silver SQLは、開発者やデータアナリスト向けにSQLのスキルを証明する資格だ。さらにPlatinumという特別なグレードもある

サイト:https://www.oracle.com/jp/education/index-172250-ja.html 試験内容:Oracle Databaseの管理スキルを証明する資格 主催・運営元:日本オラクル(ピアソンVUE) 試験科目:「Bronze DBA」「Silver DBA」「Silver SQL」「Gold DBA」 対象者:データベース技術者を目指す人向け 試験会場および実施日:オンラインまたはテストセンターにて随時 受験料:3万2340円/1科目 合格ライン:57~65%(試験科目により異なる) 時間/問題数/試験方法:120~150分(試験科目により異なる)/70~90問(試験科目により異なる)/パソコンを使用して操作するCBT方式 合格率:非公開

転職で有利になる難易度高めの国家資格

国家資格は、Part1で紹介した2種類を含め、13種類の試験がある。ここではそのうち4種類を紹介する。

情報セキュリティマネジメント試験と情報処理安全確保支援士試験は2016年に新設された資格。情報システムを安全に活用したり、サイバー攻撃に対しての対策を講じたりするために、専門知識を有した人材の確保が急務となっているためだ。

応用情報技術者試験は、基礎の勉強を終えたITエンジニア向けで、難易度はレベル3。ITストラテジスト試験はコンサルタント向けの試験で、レベル4と難易度は非常に高い。

【国家資格】情報セキュリティマネジメント試験(SG)

情報処理安全確保支援士の将来性は?

2016年から開始された新しい資格。セキュリティ関連のスキルを客観的に証明できるため、就職や転職の際に役立つ。難易度はそれほど高くない

試験内容:情報セキュリティマネジメントの計画・運用・評価・改善を通して組織の情報セキュリティ確保に貢献し、脅威から継続的に組織を守るための基本的なスキルを認定する試験 主催・運営元:情報処理推進機構(IPA) 対象者:情報管理やセキュリティ対策などの業務に携わる人 実施時期:上期・下期(開催日程は会場により異なる) 試験会場:テストセンター 受験料:7500円 合格点:午前、午後ともに100点満点で60点以上 時間/問題数/試験方法:午前 90分、午後 90分/午前 50問(四肢択一)、午後 3問(多肢選択式)/パソコンを使用して操作するCBT方式 合格率:53.9%(2021年下期) 難易度:レベル2

【国家資格】情報処理安全確保支援士試験(SC)

情報処理安全確保支援士の将来性は?

2016年から新設された資格。試験合格後、所定の手続きをすることで「情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)」の資格保持者になれる

試験内容:サイバーセキュリティ対策を推進する人材を認定する資格 主催・運営元:情報処理推進機構(IPA) 対象者:セキュリティコンサルタントを目指す人向け 実施時期:春期(4月)・秋期(10月) 試験会場:テストセンター 受験料:7500円 合格点:午前、午後ともに100点満点で60点以上 時間/問題数/試験方法:午前I 50分、午前II 40分、午後I 90分、午後II 120分/午前I 30問、午前II 25問、午後I 3問中2問、午後II 2問中1問/午前I/II 四肢択一、午後I/II 記述式 合格率:20.1%(2021年秋期) 難易度:レベル4

【国家資格】応用情報技術者試験(AP)

情報処理安全確保支援士の将来性は?

基本情報技術者試験に合格した人が次に目指すワンランク上の試験。難易度が高く、合格率も約4分の1と低いが、企業によっては手当の対象になることもある

試験内容:高度なIT人材を認定するための資格 主催・運営元:情報処理推進機構(IPA) 対象者:基本的な勉強を終えたITエンジニア向け 実施時期:春期(4月)・秋期(10月) 試験会場:テストセンター 受験料:7500円 合格点:午前、午後ともに100点満点で60点以上 時間/問題数/試験方法:午前 150分、午後 150分/午前80問、午後 11問中5問/午前 四肢択一、午後 記述式 合格率:23%(2021年秋期) 難易度:レベル3

【国家資格】ITストラテジスト試験(ST)

情報処理安全確保支援士の将来性は?

ITストラテジストは、合格率が非常に低いことからも分かるように、難易度が高い資格だ。経営方針に基づいてIT戦略を策定するなどのコンサルタント業務に向いている

試験内容:経営戦略にITを活用できる人材を認定する資格 主催・運営元:情報処理推進機構(IPA) 対象者:ITコンサルタントを目指す人 実施時期:春期(4月) 試験会場:テストセンター 受験料:7500円 合格点:午前I、午前II、午後Iの試験ともに100点満点で60点以上、午後IIの試験でAランク(A〜Dの4ランク中) 時間/問題数/試験方法:午前I 50分、午前II 40分、午後I 90分、午後II 120分/午前I 30問、午前II 25問、午後I 4問中2問、午後II 3問中1問/午前I/II 四肢択一、午後I 記述式、午後II 論述式 合格率:15.3%(2021年春期) 難易度:レベル4

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情報処理安全確保支援士 更新しないとどうなる?

情報処理安全確保支援士を名乗るためには、情報処理安全確保支援士試験の合格後に登録申請が必要であり、さらに3年ごとの更新申請をしなければなりません。 もちろん「更新しない」という選択肢もありますが、更新しない情報処理安全確保支援士の資格は失効します。

支援士のデメリットは?

デメリット 情報処理安全確保支援士を取得するデメリットとして、資格登録・維持にかかる費用が高い点が挙げられます。 試験に合格するだけでは情報処理安全確保支援士を名乗ることはできないため、名乗るには登録が必要です。 登録費用として、収入印紙の9,000円と手数料の10,700円が必要です。

情報処理安全確保支援士の需要は?

セキュリティを専門に扱うエンジニアも増えています。 ただ、情報処理推進機構の発表ではセキュリティ人材が2万人から3万人必要とされている現在で、情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の登録者は1万人に満たない状況です。 つまり、どんどんと需要が高まっているにも関わらず、セキュリティ人材は大きく増加していない状況なのです。

情報処理支援士の難易度は?

情報処理安全確保支援士試験は合格率が低く、難易度の高い試験です。 情報処理技術者に向けた試験のなかで高度試験だとされており、試験のレベルでいうと最高峰のレベル4に区分されています。 情報処理安全確保支援士試験を主催するIPAの発表によると、2022年度春期の合格率は19.2%でした。